「五層一核」 感情の奥にある“真の心”とは

2025.11.06

■ はじめに

前回のコラムでは、「鎧」というテーマを通して、
心の抑圧や防衛がどのように身体の緊張として形づくられるかを見てきました。

使命エネルギーと3つの鎧はこちら☜

鎧とは、過去の痛みや恐れを受け止めながらも、
私たちが生き延びるために身につけたからだの知恵でした。
しかし、その鎧は長く続くうちに、
感情や衝動、生命の流れそのものを閉じ込めてしまうことがあります。

今回は、その鎧の奥にある 
感じる心が再び動き出すプロセス「五層一核」 についてお話しします。


■ 五層一核とは  感情の層を通って中心へ向かう道筋

ゲシュタルト療法の創始者フリッツ・パールズは、
人の心は五つの層を通り抜けて「本来の自己(Authentic Self)」に至ると述べました。

この「五層一核(Five Layers of Neurosis)」とは、
防衛がどのように築かれ、どのように解けていくのかを示した、
心の地図のようなモデルです。

内容 心の働き
① 決まり文句の層 「大丈夫です」「元気です」といった形式的な反応。 社会的適応・安全確保

② 役割の層 

「良い人」「強い母親」「ちゃんとした自分」など、期待に応える仮面。 同一化・役割的アイデンティティ
③ 行き詰まりの層 無感覚・無力・空虚。「何も感じない」状態。 エネルギーの凍結・防衛の中心
 ④ 内破の層 抑え込まれた感情が内側で圧縮される。 感情の目覚め・恐れ・涙・震え
⑤ 外破の層 感情の表現:怒り・悲しみ・喜び・愛。 エネルギーの解放・生の回復
◎ 核(Core) 感情の波が静まった後に現れる「在る」という感覚。 統合・静けさ・Authentic Self

外側に行くほど社会的で、
内側に進むほど自然で生命的な自己に近づいていきます。


■ 鎧と五層のちがい ― 壊すことから、感じることへ

ライヒの提唱した「鎧(armor)」という言葉は、
どうしても“悪いものを取り除く”“打ち破る”という印象を与えます。
実際、初期のライヒ派やバイオエナジェティクスなどでは、
感情の解放や緊張の解除を目的としたカタルシス的アプローチが主流でした。

けれども、フリッツ・パールズはその考えを新しい視点から見直します。
彼にとって防衛は「壊す対象」ではなく、
“いまここ”で感じ、理解し、再び取り込んでいくプロセスでした。

「層を超えるとは、突破することではなく、
そこにあるものを感じ、受け入れることだ。」
Fritz Perls, Gestalt Therapy Verbatim

ライヒが「解放(release)」を目的としたのに対し、
パールズは「気づき(awareness)」と「統合(integration)」を目的としました。

鎧は、痛みを避けて“止まった”エネルギーの構造。
五層一核は、その止まったエネルギーが“感じられ、動き出す”心の道筋。

鎧は「生き延びる力」、
五層は「生き直す力」。

そしてその両方が、
最終的には「統合」というひとつの運動に溶け合っていきます。

統合とは、
壊すことでも、解放することでもなく、
止まっていた流れが、もう一度“いのち”として動き出すこと。


■ 層は、取り除くものではなく、感じて通り抜けるもの

「層」とは、心の中で繰り返される防衛の形であり、
その奥には、まだ触れられていない生命の動きが眠っています。

  • 「決まり文句の層」では、喉や胸が閉じて声が出にくい。

  • 「役割の層」では、姿勢が固く、表情が緊張している。

  • 「行き詰まりの層」では、呼吸が浅く、感覚が鈍くなる。

  • 「内破の層」では、涙や震え、息の詰まりが現れる。

  • 「外破の層」では、全身が呼吸とともに動き始める。

心と身体は、このように連動しています。
五層のプロセスとは、
頭で理解することではなく、身体を通して“気づき”を取り戻していく体験なのです。


■ 核  感情の波が静まったあとの「在る」

層を通り抜けると、
その先に現れるのは“何もない”ようでいて、
実は最も満ちた状態です。

そこでは、変えようとしていた自己が静まり、
ただ「いまここにいる」という深い呼吸だけが残ります。

それが、パールズのいう Authentic Self(本来の自己)
鎧を理解し、層を感じきった先に現れる、
統合された静けさです。


■ 統合  壊すことではなく、調和としての癒し

ライヒの時代には「感情の解放」が中心でした。
しかし、パールズ以降の身体心理療法では、
感情の流れを統合することが目的になります。

それは「痛みを消すこと」でも「防衛をなくすこと」でもありません。
止まっていた流れをもう一度呼び覚まし、
からだ・感情・意識がひとつの呼吸として動き出すこと。

その瞬間、
“生き延びるために守ってきた私”と、
“もう一度生きようとする私”が出会う。

それが、「鎧」と「五層」の交わる場所です。

鎧の奥で止まっていた流れが、
五層のプロセスを通して再び動き出すとき、
心と身体はもう一度「ひとつ」になる。


■ おわりに

鎧は、私たちを守ってきた智慧。
五層は、その奥に眠る“感じる力”を取り戻す道。

防衛を否定することなく、
その防衛を通して、もう一度“生きている身体”に出会う。
それが、心の統合プロセスです。

そしてその旅の果てにあるのは、
静けさや悟りではなく、
もう一度、世界と呼吸を交わしながら生きていくことです。

salon sonomamaでは、対話によるカウンセリングに加えて、
呼吸・姿勢・感情の動きを重視した身体心理療法、
そして「今ここ」に気づきを深めるゲシュタルト療法など、
心と身体の両面からアプローチするセラピーを行っています。

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