【食いしばりと目の不調】 口を閉ざした身体の記憶

2025.11.16

神経系が「安全」を思い出すとき

■ はじめに

・歯の食いしばりが酷いんです
・目の奥が痛いんです
・原因が分からないまま視力が落ちていくんです

という相談を受けることは日常です。

こういう方は、歯医者に行っても「顎の力が強すぎなだけ」、
眼科でも「異常はありません」と言われます。

そして最近では、

・眼底出血
・網膜静脈閉塞症

と診断され、原因も分からず、一生注射を打つ以外何をしても良くならないんです…

こんな話を聞くことが増えました。

このようなケースは、
身体心理療法やポリヴェーガル理論の視点から見ると、その原因が見えてきます。

一言で言うと、これらの症状には
“身体が感じてきた歴史”が隠れているのです。

■ 食いしばりとは闘うことをやめた身体

なんでも「癖」という方がいますが、食いしばりは、単なる癖ではありません。
神経的には「闘う」「耐える」モード(交感神経優位)の名残りです。

例えば、怒りや悲しみを表現できないとき、
そのエネルギーは口や顎、喉の奥に溜まります。

「泣いたら迷惑をかける」
「怒ったら嫌われる」
「我慢すれば平和でいられる」

そう思って生きてきた人ほど、
歯を噛みしめることで“心を保ってきた”のです。

顎(咬筋や側頭筋)は「言いたいことを止める」筋肉です。
声を出せない怒りや、伝えられなかった悲しみが、
いつしか身体の中で「噛みしめ」という形で残っているのです。

■ 目の不調 「見たくない」防衛反応

首や顎が固まると、
その緊張は頭部全体に波及し、眼球の微細な動きを制限します。
目のピント調整を行う動眼神経や外転神経は、
社会的つながりや安全感を司る腹側迷走神経と連動して働いています。

肩から上の辺りは、人と安全に繋がる時に働いている神経です。

つまり、心が「怖くて見られない」「見たくない」と感じるとき、
視覚そのものが防衛の一部になります。

「母の不安を見ていられなかった」
「父が怒鳴る顔を見ないようにしていた」

幼少期のその“見ない”選択は、
当時の自分を守るための立派な生存戦略でした。

しかし、その神経パターンが今も続いていると、
無意識のうちに目の筋肉が緊張し、視界が曇ることがあります。

■ よくある事例:食いしばりと目の不調に見られる神経の緊張パターン

ワークをしていると
顎が開かず、顔全体に強い緊張がある方に非常によく出会います。
歯科では「顎関節症」、眼科では「異常なし」。
しかし、日常的な不快感や慢性疲労が続いている。
そんな方々に共通して見られるのが、
「表情を止めて生きてきた」身体の習慣です。

● ワーク前の状態

ワークの前は、顎や口まわりがほとんど動かず、首・肩が固まり、呼吸は胸の上だけで浅くなっています。
顔全体が防具のように張りつめ、“表情を作ること”が緊張を招いてしまう状態です。

● 感情に触れたときの変化

ゆっくりと話を進め、
幼少期や家族との関係、過去の感情に触れていくと、多くの方に呼吸の変化が現れます。

胸の奥が動き始め、首が柔らかくなり、喉が開き、
顎や目の周りの緊張がゆっくりと解けていきます。

すると感情の流れが通り、涙があふれることがあります。
それは「悲しい」だけではなく、凍っていた神経が安全を取り戻し、動き出したサインです。

● ワーク後の様子

ワークの終わりには、
多くの方の顔の筋肉がやわらぎ、表情が変化しています。
顎の力が抜け、目が自然に開き、呼吸が下腹部まで深く通るようになります。

「顔が軽い」
「視界が明るくなった」
「周りが優しく感じる」

そんな言葉をよく言われます。
それは筋肉が弛緩しただけでなく、神経系が“安全”を取り戻した瞬間なのです。

■ 口が開けられない 表現を守ってきた神経

「口を開けるのがつらい」「歯医者が苦手」という方も多くいます。
口を開くという行為は、食べる・話す・呼吸するという生命の基本であり、
「外界との接触」を意味します。

しかし、幼少期に「黙ってなさい」「うるさい」「我慢しなさい」
言われ続けた人の神経系は、

「口を開く=危険」と学習してしまうのです。

歯医者の治療のように、
「口を開けたまま動けない」「何かが侵入してくる」状況は、
過去の無力感や支配体験を呼び起こしやすい。
それは恐怖ではなく、身体のトラウマ記憶の再生なのです。

■ 神経が“安全”を思い出す道筋

sonomamaでは、「口を開けること」「見ること」を
無理に促すのではなく、まず神経が安全を感じる場を整えます。

  1. 唇を感じる
     →「閉じていても安全」という感覚を再学習。

  2. ため息やあくびの呼吸
     → 喉の筋肉をやわらげ、迷走神経を穏やかに刺激。

  3. 声を出す
     → 喉と顎を内側から振動させ、“声を出す安心”を取り戻す。

  4. 視線のゆるめ方
     → 遠くと近くを交互に見る。
     → 「見ても大丈夫」という経験を少しずつ積む。

こうした小さな実践が、神経に「もう危険ではない」という信号を伝え、
身体全体のリズムを回復させていきます。

こうすることで、ワークでの過去の未完了の完了が進みやすくなります。

■ 「治す」ではなく、「思い出す」

食いしばりも、目の不調も、口が開けられないことも、
どれも“悪い症状”ではありません。

それは、過去の環境の中で
「感じる」「表現する」ことを守ってきた身体の知恵です。

その防衛がいらなくなる瞬間、呼吸が通り、顎がゆるみ、視界が明るくなります。
それは「治った」というより、身体が本来の自己調整を思い出したのです。

■ まとめ

口を閉ざし、目を閉じ、声を飲み込むことで守ってきた命。

それが、安心の中で再び「開く」ことを思い出すとき、
その人の中に“生きる力”が流れ始める。

神経が安全を感じるとは、
世界をもう一度「見て」「感じて」「語る」こと。
それは決して理屈ではなく、身体が静かに語る“生命の回復”の物語なのです。

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