トラウマの回復は、心だけではなく「全体の回路」で起こる

2025.10.30

トラウマは何か強烈な体験だけをイメージしがちですが
単なる「出来事」ではなく、その瞬間に身体と心が処理しきれなかった反応のことを指しています。

ですから、回復とは、感情を“理解する”のではなく
(知っただけではトラウマ自体は良くならないです)

神経・身体・関係・心の全体の回路を取り戻すプロセスです。

■ トラウマとは「途中で止まったプロセス」

プロセスをわかりやすく言うと

怒りたかったのに怒れなかった。
逃げたかったのに動けなかった。
助けを求めたかったのに声が出なかった。

このような誰にでもある体験のことです。

その「途中で止まったエネルギー」が、
いまも身体の奥で静かに凍結したまま残っているのです。
つまり、トラウマとは、最後まで完了できなかった生命の動きなのです。

■ トラウマの種類と、それぞれの回復の入り口

トラウマといっても、いくつかのタイプがあります。
神経の反応、身体の症状、人との関わり方に違いがあるので理解しておくといいでしょう。

実はsonomamaでは”トラウマ”と言う言葉は好んで使いませんが
(理論だけでは、知性化し過ぎてあまり役に立たないのです。)

今回はクライアントの方にもわかりやすく伝えるために使っています。


■ 急性トラウマ

一瞬で神経が圧倒された体験です。
事故・災害・暴力・手術などがきっかけで起こります。
一般的にイメージしやすいトラウマの体験です。

  • 呼吸が止まり、身体が固まる

  • 過覚醒・悪夢・フラッシュバック

  • 「あの瞬間」が今も続いているかのように感じるものです。

回復の方向としては

「あれは過去だった」と身体が実感できるようになることに取り組みます。
この方は、記憶があがりにくい状態(解離、シャットダウン)の方も多く(その期間の記憶が思い出せない)
こともあります。ワークを続けていくうちに、安心が育ち、少しづつ思い出し触れていきます。

■ 慢性トラウマ

危険やストレスが長期間続いた体験です。
家庭や職場での緊張状態、長年の我慢、過剰な責任感など
仕事や親として、、と疲弊し、来られる方に最も多い物かもしれません。
不登校の原因の一つにもなっている事が多いです。

  • 常に気が張っている

  • 休むと不安になる

  • 不眠・肩こり・胃腸不調などが続く

回復の方向としては

「休んでも大丈夫なんだ」と身体が学び、リラックスできるようになることです。

休むこと、止まることが”脅威”になっている事も多く、
その緊張や行動化の背景にある役割の自分と向き合っていく事に取り組みます。

■ 発達トラウマ

安心を育てる時期に、安心がなかった体験です。
親の不安、無視や過干渉、拒絶などの影響が大きい。
現実的にはほぼ親子関係に起因しています。
sonomamaでは一番扱う事が多いケースです。

関係は「努力や無理」で繋ぐか、「完全に切る、逃げる」といった、パターンを繰り返す。
把握出来る(予測可能)な関係の安全を求めるが(安全と安心は違います)
結局本音を言えない関係に疲れる。
といった傾向が共通しているように思います。

背側迷走神経(シャットダウン)が優位になりやすい
感情の凍結、無感覚、自己否定的
親密さに不安を感じる

回復の方向としては

なにより安全な関係の中で「安心を学び直す」ことです。
しかし、不安定な関係が安全の基盤になっているため、長期間になることがほとんどです。
幼少期の体験が影響し”本当の安心の土台”がそもそも何なのかがわからないからです。

感情よりも、評価や結果といった条件付きの自分像で生きてきたため
感情を感じる、受け取る、共有するといった事に慣れるまでに、とても繊細に時間をかけていきます。

■ 関係・愛着トラウマ

愛する人との関係の中で傷ついた体験です。
夫婦・恋人・親子など、親密な関係で起こりやすいです。
発達トラウマとの違いは、すでに育った”不安定な土台”の中で再度傷ついた関係。
臨床で扱うと、ほぼ100%愛着トラウマは発達トラウマの上に重なっているものだと感じています。

  • 「近づくと怖い」「離れると孤独」のパターンを繰り返していたり

  • 背側(シャットダウン)と腹側(少し安心)の神経を行き来する(接近と回避)

  • 罪悪感や混乱、依存と距離の揺れの中で生きる

回復の方向としては

「共にいても自分でいられる」境界を取り戻すことですが、
その基盤になっているものが、発達トラウマであることがほとんどなので、いずれそこを扱っていく事になります。
ワークで今気になっている相手との関係を扱うと、その奥にはいつも、幼少期の親子関係が見えてくるのはこのためです。

■ 回復の波  安全と防衛を行き来するリズム

トラウマからの回復は、簡単ではなく、いわば直線で一気に、、とは進みません。

再トラウマのケースでは、家族や周りの理解が追い付かず
(悪くなったように見えて修正されたり、セラピーを中断したり)と
回復の途中でまたプロセスが止まってしまった体験が影響することがあります。

周りの理解とサポートは必須なのです。

良くなっていくというのは

「安全を感じて安心する→ でも未知な状態に不安になる(リバウンド)→ 再度向き合い再調整 → 安定していく」という波を何度も繰り返します。

これは失敗ではなく、神経で言えば安定を学ぶために行ったり来たりする呼吸です。
少し安心を知ったからこそ、次の不安が顔をだすのです。
それは寧ろ回復のサインなのです。

■ 心理プロセス 「もう一度信じる」旅

人との関係で傷ついた神経は、まず誰かに委ね(他律)、やがて自分で安全を感じ(自律)、
最終的に、他者と共にいても自由でいられる(共律)段階へと育っていきます。

それは「信頼をもう一度信じる」発達のプロセスです。

■ 身体プロセス 「止まっていた動きが戻る」

身体の回復は、動きの回復としても現れます。

止まっていた呼吸が動き出す。
胸や喉の緊張がほどけ始める。
涙が出て、声が戻る。

これらは最もよく現れる回復のサインです。

それは、生命エネルギーが再び流れ出すサイン。
ボディーワークや呼吸・声のワークは、
この「止まった動きを小さく再開させる」ための感覚を取り戻す時間になります。

■ ゲシュタルト療法での視点 「接触と撤退」のリズムを取り戻す

健康とは、
「接触」と「撤退(引きこもり)」の自然なリズムが保たれている状態です。
天気の日には窓を開け、台風の日は閉じる。自然なリズムです。

しかし、トラウマ状態では、そのリズムが崩れていきます。
自分が何をしたいのか、外が(相手が)どうなっているのかがわからず混乱しているのです。

回復に向かうには、自分の状態に気づき

”いま自分がどうしたいのか”を体の感覚を通して感じ

自分のための境界を再発見することなのです。

■ 「何もしないで、共にいる」という愛の形

夫婦関係やパートナーシップ、親子関係の悩みで来られる方は
それぞれの親との関係や過去の体験でうまれた、発達トラウマ、愛着トラウマが影響し、”その再演”が今の家庭で起きているケースがほとんどです。

ですが実際には、今の関係を解決するために

どう接したらいいのか?
どんな事を言えばいいのか?

とその方法や正しさを求められる方は多い印象です。
何か正しい答えがあるはずだと信じている。

これは、人の自我意識と無意識の働きにも関連します。
今回それはさておき

つまり、この答え探し、事態は人の心の構造上自然な事なのですが

トラウマ回復で最も大切なのは、

何をするかではなく、どう在るかです。

例えば、
背側に沈んでいる相手に必要なのは、正しさではなく、“安全な存在”そのものです。

何もしないで、共にいる。
相手を信じ、自分を整え、安心した姿で”待つ力”なのです。

夫婦や親子の問題を解決する方法として明確に言えるのは、在り方の修復だけです。

それが最も深い共調であり、
トラウマを超える関係のはじまりになるのです。

■ 「揺れても大丈夫」という身体の知恵

回復とは、感情を消すことではなく、
大きな感情の中でも再び安心して呼吸ができるようになることです。

神経が動き、心が感じ、身体が揺れ、人と関われる。
その時、私たちは「もう大丈夫」ではなく、
「揺れていても大丈夫」とようやく感じられるのです。

それが、生命のリズムの再誕生です。

■ あとがき

人はどんな状態でも、壊れたのではなく、
守るために止まっていただけです。

焦らず、静かに、少しずつ。
身体は必ず、もう一度“自分を生きる”を選び直します。

salonSonomama は、カウンセリングを中心に心身の不調の軽減を目指す、セラピールームです。
薬を使わず、心と向き合うことで心身の回復を促します。

当サロンは阪急水瀬駅より徒歩10分の立地にございます。
完全予約制で、対面以外にもオンラインにも対応しております。
お気軽にご相談くださいませ。

当サロンの特徴>>
ご予約はこちら>>

PAGE
TOP