姿勢と心 ― トラウマが身体に刻むも

2025.12.04

姿勢を気にする方は、とても多いです。

「猫背なんです」
「反り腰なんです」
「首が、膝が・・ずっと痛いです」

最近では、スマホやPCの影響、デスクワークの姿勢などが
よく原因として挙げられています。

しかし、セラピーの現場で丁寧に紐解いていくと、
その姿勢や痛みは、実は、何十年も前からあったことに気づきます。

ワークの中でトラウマ感情に触れ、
閉じ込めていた悲しみや怒り、恐れを少しずつ解放していくと、
不思議なほど、姿勢は変わっていきます。

身体が柔らかくなるだけでなく、
呼吸が深まり、目の奥の表情まで変わっていく。

顔つきが変わり、別人の様になる方も多いです。

それは「姿勢がよくなった」というより、
“心と身体のつながりが取り戻された”瞬間なのです。

この変化は、私たちの心と身体が
どれほど深く結びついているかを物語っています。

私たちは、言葉よりも先に身体で生きています。
まだ赤ん坊だったころ、私たちは言葉を持たず、声のトーンや、抱かれた時の腕の強さ、
相手の呼吸のリズムで、世界を感じていました。

その感じ方が“姿勢の在り方”として刻まれてきたのです。

■ 姿勢は「生き延びてきた形」

姿勢とは、単に体の形ではなく、
生き延びるために編み出した心の形」です。

例えば
いつも背中を丸めている人は、
「これ以上目立たないように」「攻撃されないように」と、
身体が小さくなることで安全を確保してきたかもしれませんし、

逆に、胸を張って堂々としている人の中には、
「弱さを見せたら壊れてしまう」という無意識の信念から、
筋肉を固めて自分を守っている人もいます。

姿勢には、思考よりも正直に
“その人がどんな世界で生きてきたか”が映し出されているのです。

■ トラウマは「未完了」

身体の中に閉じ込められた“未完の動き”でもあります。

恐怖を感じた瞬間、逃げようとした脚が、”固まった膝になる”
怒りたかったのに抑え込まれた腕が、”引き込まれた肩になる”
泣きたかったけれど、涙を止めた喉が、”声を抑え続けている”

文化的な背景もあって、これらの硬さは最も多くの方に見られます。

それらの動きが途中で止められたまま、
筋肉と神経に「まだ終わっていない」記憶として刻まれているのです。

この“止まった動き”が、やがて
慢性的な緊張や、姿勢のくせとして現れるのです。

■ 「正しい姿勢」は存在しない

ここは最も大切なポイントです。

多くの人は「姿勢を良くしよう」としますが、身体心理療法の視点では、
“良い姿勢”というものは存在しません。

大切なのは、「正しい形」ではなく「動きの自由さ」です。

胸を開こうとしても、そこに痛みや怖さがあるなら、
それは軍人の様なただの“演技された姿勢”になってしまいます。

本当に姿勢が変わるのは、その奥にある感情に身体ごと触れたときです。
涙が自然にこぼれたり、息が深くなるような瞬間。
そこに“本当の姿勢の変化”が起こるのです。

■ 神経と姿勢のつながり

ポリヴェーガル理論では、
姿勢は神経の状態を映す鏡だと考えます。

安心・つながりの神経(腹側迷走神経)が働くと、
胸は自然に開き、視線はやわらぎ、声も温かくなります。

逆に、恐怖や無力感(背側迷走神経)が優位になると、
身体は縮こまり、呼吸が浅くなり、目の焦点がぼやけます。
戦う・逃げる(交感神経)が働くと、胸が張り、顎が固くなり、腕や脚に力がこもります。

つまり、姿勢の背後には必ず
“神経の状態”と“感情の歴史”が流れているのです。

■ 姿勢が変わると、人生が変わる

体験するとわかりますが、最も多くの方が驚くのが、
”自分の存在感”を強く感じられるようになることです。

あるクライアントは、いつも肩をすくめていました。
話す声は小さく、息が浅く、
何かを感じそうになるとすぐに笑ってごまかす癖がありました。

セラピーで
胸の奥に残っていた「怖かった」「寂しかった」という感情に
少しずつ触れていくと、自然と肩が下がり、声が響くようになりました。

こうなると
「なんか、“自分がどっしりしている感じがする。」と言われます。

こうなると、悩み自体が小さな出来事に感じられるのです。

姿勢が変わるとは、過去がただの過去となり、
身体が過去から“いま”へ戻るということなのです。

■ 変化は「気づき」から始まる

癒しの最初の一歩は、姿勢を“直す”ことではなく、
その背後にある心の動きに気づくことです。

「いま、息を止めているな」
「胸を開くと涙が出そう」
「首が固まるのは、怒りを抑えてるのかもしれない」

こうした小さな気づきが、
過去と現在をつなぎ直す通路になります。

■ 身体は、いまを生きている

トラウマは過去に起きた出来事ですが、
それは身体の中では“いま”も続いている体験です。
けれど、同時に身体はいつでも「いま」に戻ることができます。

深く息を吸うとき。
足の裏で地面を感じるとき。
誰かと目を合わせ、あたたかい共感を受け取るとき。

その瞬間、神経は安全を感じ、姿勢は自然に変わりはじめます。

姿勢を通して、心が変わり、心を通して、また姿勢が変わっていく。
この循環の中で、私たちは少しずつ、
「生きる」という感覚を取り戻していくのです。

おわりに

姿勢とは、あなたの「物語」のかたちです。
それは、生き延びようとしたあなたの知恵であり、
いまここに生きるための道標でもあります。

無理に変えるのではなく、
その姿勢の中にある“想い”に耳を傾ける。それが、心と身体を再びひとつに戻す最初の一歩なのです。

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