言葉にならないものを聴く力 ― 良きセラピストの在り方について」

2025.08.16

セラピーは“技法”によって成立するものではありません。
どれほど知識を持っていても、セラピスト自身の在り方が整っていなければその技法は簡単に相手を傷つけるものへと変わってしまいます。

では、成熟したセラピストの姿勢とはどのようなものなのでしょうか。

■ セラピストの姿勢

▷ 自分自身の問題に取り組み続けていること
 自分の問題から目を逸らしたまま関われば、それは必ず他者に投影されます。
 転移・逆転移に対応できず、知らぬ間に自分の問題をクライアントに押し付けてしまうことになります。

▷ 気づく力を持っていること
 “自分に今何が起きているのか”を感じ取れなければ、相手との共鳴が起きません。
 自分の内的状態に気づけないセラピストは、相手の感情に巻き込まれ、それをさらに相手に押し戻してしまいます。

▷ 非言語的な情報に共鳴できること
 言葉はときに「現実を感じないための抵抗」になります。
 おしゃべりのゲームの中で“偽りの着地点”を作らず、
 言葉の背後にある感情や身体の動きに静かにチューニングしていく力が必要です。

■ セラピストの人格(禁止事項)

セラピストとしてもっとも注意しなければならない“3つの落とし穴”があります。

① 侵入
 鋭い解釈や技法を使い、相手の無意識に“無断で介入”すること。
 抵抗を打ち破ることは変容ではなく暴力です。

② 剥奪
 クライアント自身の成長の力を軽視し、
 本来自分で気づいていくべきプロセスを奪ってしまうこと。

③ 対話の歪み
 ・過度に主観的となり、クライアントを使って自分の欲求を満たそうとする(過剰な個人性)
 ・逆に、スキルや理論に閉じこもり、自分を隠蔽する(非個人的な関わり)

どちらも“対話”という名のもとに、実は相手と真正面から向き合えていない状態です。

■ 傾聴の成熟段階

傾聴にも段階があります。

1. 暴力的・ハラスメント的な関わり
 相手を否定し、支配しようとする関わり。

2. ジャッジメントやアドバイス
 価値観を押しつけ、“こうあるべき”という枠に相手をはめ込む。

3. 一緒に考える・待つことができる段階
 宗教モデルではなく“哲学モデル”としての関わり。
 判断を保留にする《エポケー》の態度。

4. 相手を追体験し、言わんとしていることを言葉にして返せる段階
 自分が“分からない世界”に入っていくことを恐れず、ネガティブ・ケイパビリティ(分からなさに耐える力) が働き始める。

5. 相手を体験しながら、自分の感覚も同時に保ち、その中で必要なアプローチを選択できる段階
 ここでは
 1)相手を追体験している自分
 2)自分の感覚を感じている自分
 3)それをどう振舞うかを選んでいる自分
 4)空間(場)の全体を把握している自分
 が同時に働いています。

■ 身体的傾聴と共鳴

良きセラピストは「耳」ではなく身体全体で聴いています。
• 相手の身体の状態を客観的に観察できること
• 自分の身体感覚に生まれた変化に気づき、その意味を読み取れること
• 相手の身体感覚と自分の身体感覚が共鳴した瞬間に気づき、それを言葉にできること

そして何より
その共鳴をもとに、言葉を超えた“身体対話”へ移行し、
新たな気づきをともに見出していくことができる
という点に最大の特徴があります。

おわりに

セラピーにおけるもっとも本質的な問いは
「何をするか」ではなく
「どのように在るか」 です。

在り方が整ったとき、技法は自然にその場に現れます。
関わりの成熟とは、相手との対話を通じて
自分自身の在り方を育て続けるプロセスでもあるのです。

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