
なぜ、あれだけ苦しんできたはずなのに、また繰り返してしまうのだろう。
セラピーを続けていく中で、この問いに出会う方は少なくありません。
「また過去と同じ生き方をしている」
ふと、そんな感覚に包まれる瞬間があるのです。
例えば、親元へ戻ってしまう。
同じパターンで転職を繰り返してしまう。
気づけば、恋愛もいつも同じ展開になってしまう。
誰にでも、思い当たる出来事がひとつやふたつあるのではないでしょうか。
それは決して珍しいことではなく、人の心と神経の性質による、ごく自然な流れでもあるのです。
■安全な苦痛という錯覚

人は本能的に「未知を恐れ、既知を好む」という傾向を持っています。
予測できないものは危険に感じ、予測できるものは安心に近いと錯覚する。
そのため、たとえ苦痛であっても、慣れ親しんだ痛みは「安全な苦痛」として受け入れられてしまうのです。
慣れた苦痛は、心身にとって「扱い慣れたパターン」です。
新しい道を選ぶよりも、同じ苦しみを繰り返す方が無意識には「安全」なのです。
■未完了の感情が繰り返しを生む

さらに深い所には、未完了の感情があります。
子どもの頃に十分に表現できなかった怒りや悲しみ、寂しさです。
それらは心身に刻まれ、長い時間を経ても「まだ終わっていない」と訴え続けています。
無意識はそれを完了させようと働きます。
「もう一度、同じ場面を繰り返せば、今度こそ解決できるのではないか」とサインを送ってきます。
そしてまた、過去と似た人間関係や環境へと引き戻されてしまうのです。
しかし、過去と同じ条件のもとでは、多くの場合「再演」に終わります。
新しい結末は生まれにくく、古いドラマが繰り返し上映されるだけなのです。
■過去と現在が重なるとき

セラピーの中で、もう忘れていたはずの過去と現在が重なっていることに気づき、驚かれる方も少なくありません。
これは自然なことです。
私たちの神経系は過去の体験を参照しながら今を感じるため、出来事が重なり合うのは当然のことなのです。
しかし大切なのは「新しさ」とは過去を見直すことではないという点です。
過去を振り返ることは理解を深めますが、新しさそのものは過去には存在しません。
「新しさ」とは、過去にない未知の体験に触れることでしか生まれないのです。
■気づきと行動の落とし穴

気づきが深まると、すぐに行動に移したくなる方もいます。
これは半分は正解で、半分は間違いです。
エネルギーが行動に向かうのは大切なことです。
しかし、その行動が過去を参照して生まれているとしたら、
繰り返されるのは「既知のドラマの再放送」に過ぎないからです。
せっかく新しい未来を描こうとしても、古い脚本を手にしたまま舞台に立つようなもの。
そこには未知はなく、慣れた苦痛が繰り返されるだけなのです。
■「抱える力」を育むということ

では、どうすれば未知への道を歩めるのでしょうか。
大切なのは、まず「ゆっくりとエネルギーを感じること」です。
すぐに動き出すのではなく、心と身体に湧き上がってきたエネルギーを「今ここ」で抱えてみる。
抱えることは簡単ではありません。苦しさや不安が伴うからです。
しかし、そのエネルギーを感じ切ることができたとき、過去の延長ではない新しい未来のイメージが芽生え始めます。
この「抱える力」を育んでいくことこそが、未知の未来を歩むための準備になるのです。
■番外編

実は、過去への回帰は、親元や恋愛、転職といった身近なテーマだけに限られません。
セミナーやワークショップを次々と渡り歩くこと、病院や治療法を転々と探し求めることもまた、このパターンに含まれることがあります。
「立ち止まれない」「常に何かを探している」
そんな感覚に駆られるとき、人は一見すると「新しさ」を探しているように思えます。
しかし、その内側を丁寧に見ていくと、実際には過去の未完了の衝動が繰り返されている場合があるのです。
ある方は気づかれました。
「私は新しい学びを得たいと思って動いていたつもりだった。
でも本当は、何かを探し、少し緩和し、やがて絶望するという過去のドラマを、ずっと繰り返していた。
新しさとは、外側にある「次のセミナー」や「次の治療法」の中にはありません。
本当の新しさは、立ち止まり、今ここで自分の内側に向き合うことによって初めて開かれていくのです。
■未知への道へ
過去への回帰は、一時的には安心を与えます。
しかしそれは「安全な苦痛」としての安心であり、やがて再び苦しみを呼び起こします。
未知への道は怖さを伴います。
しかし、その怖さを超えた時にだけ、過去には存在しなかった「本来の心地よさ」「本物の安らぎ」に出会えるのです。
セラピーとは、この未知への道を、一人ではなく共に歩むための場です。
過去への回帰を責めるのではなく「そうせざるを得なかった」ことを理解し、尊重しながら、少しずつ未完了をほどき、未知を抱えられる力を育てていく。
そのプロセスの先にこそ、私たちが本当に求めてきた変化と自由があります。
そしてその道は、今ここから、静かに始めることができるのです。
salonSonomama は、カウンセリングを中心に心身の不調の軽減を目指す、セラピールームです。
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