原初的欲求と社会的欲求の統合 ”回復のあとに起こる揺らぎ ”について

2025.12.10

セラピーを続けていくと、ある時期に「もう大丈夫」と感じる瞬間があります。
感情が流れ、エネルギーが戻り、生きる力が蘇ったように見える時期です。

しかしその直後に、再び人間関係でつまずいたり、衝動的な恋愛や依存に向かったりすることがあります。

この現象は、「抑圧されていた原初的欲求の再活性化」として理解できます。

■ 原初的欲求 と 生命の最初のかたち

メラニー・クラインを参照すると、私たちは生まれた瞬間から
「愛したい」「摂取したい」「壊したい」「守りたい」といった
両価的な原初的衝動(愛と憎)を持っています。
このエネルギーは、生きる力そのものです。

乳児期においては、母の乳房が「よい対象」と「悪い対象」として感情的に分裂されています。
この「部分対象関係」と呼ばれるものが心の最初の世界です。

良いか悪いか、二元論的に分断されています。

やがて発達が進むと、
「良い母」と「悪い母」は同じ存在であると気づき始めます。

良いも悪いも、どちらも同じ母だった。と一つの母として受け入れていくわけです。

この気づきこそ、クラインが言う抑うつ的立場の到来であり、人の成長に欠かせない統合のプロセスなのです。

■ 感情が解放されると、分裂的段階が再活性化する

セラピーで感情が解放される時、長く抑えてきた原初的欲求
「愛されたい」「飲み込みたい」「壊したい」が再び動き出します。

それは同時に、心の中で再び“部分対象関係”が活性化する時期でもあります。

この段階では、他者(恋人・セラピスト・友人)が、
「理想的な対象」か「失望を与える対象」か、どちらかに分裂して見えやすくなります。

その結果、恋愛衝動や強い依存、あるいは突き放しといった揺れが起こりやすくなります。

これは退行ではなく、統合のプロセスが深層で動いている証拠なのです。

しかしこの時、同時的に過去の古い対処パターン(逃避、回避)も活性化されてしまいます。

■ 社会的欲求の側面  現実適応とのズレ

先に述べたように、社会的欲求(他者への配慮・倫理・役割意識)は、
「抑うつ的立場」を十分に経験することで育まれます。

セラピーの中では、私はこれを
「不快の中にとどまる力」ホールドする力として伝えています。

つまり、自分の内なる攻撃性や依存性を認めながら、
他者を“全体として”見る力が育つ段階なのです。

しかし、セラピー後期に原初的欲求が再び強く動き出すと、
この社会的自己とのバランスが一時的に崩れます。

ここが回復の一つのキーポイントです。

たとえば、
・感情解放後の恋愛衝動
・セラピストや他者への理想化と失望
・「愛してほしい」と「自立したい」の葛藤

こうした現象は、統合が進む手前の揺らぎとしてよく見られるため
時間をかけて、押さず引かずの時間を過ごすことになります。

悶々とするわけです。

■ 統合とは、「愛と憎」を同時に抱ける心になること

成熟とは、「良い対象と悪い対象を統合する能力」です。

つまり、
「愛する相手を同時に憎むことができる」
「自分の攻撃性を意識しながら、それでも関係を保とうとする」

この状態こそ、抑うつ的立場の統合であり、心理的成熟の核心です。

セラピーにおける統合とは、
原初的衝動(本能・愛着・破壊)を抑えることではなく、
それを社会的自己の中に取り込み、関係の中で表現可能なかたちに変えていくこと。

すなわち、
「愛したい自分」と「壊したい自分」を、
どちらも自分の一部として抱けるようになることです。

これが、心の統合の本質です。

■ 回復のあとに訪れる“第二の試練”

セラピー終盤に起こる恋愛的な行動化や離脱は、
この統合のプロセスが実際の対人関係で試されている段階です。

それは失敗ではなく、
自己と他者を同時に現実の中で扱うための練習といえます。

この時期に大切なのは、「行動化を止める」ことよりも、
その衝動の中にある愛と恐れ、欲望と罪悪感を感じながら理解していくことです。

そのプロセスを経て、
人はより深い、成熟した関係性へと成長していくのです。

まずはセラピストとの安全な関係の中で、真の”繋がり”を育んでいくことが大切です。

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