身体が震えるとき、何が起きているのか
身体を扱うセラピーをしていると、避けて通れないテーマがあります。
「震え」です。
最近では、
「震えはトラウマが解放されているサイン」
と説明されることもあります。
もちろん、そう捉えられる場面もあると思います。
ただ、当然それだけでは説明できない震えにもたくさん出会います。
筋肉が疲れて震えていることもある。
怖さで震えていることもある。
緊張が抜けるときに震えることもあるし、逆に緊張が高まって震えることもあります。
感情が動いたときに出ることもあれば、特に本人には何の意味も感じられないこともあります。
では、身体が震えるとき、一体何が起きているのでしょうか。
身体心理療法には、いくつもの考え方があります。
ライヒ、ローエン、バイオシンセシス、SE、TRE。
同じ「震える」という身体現象を見ていても、見ているものは少しずつ違います。
今回は、それぞれの違いを整理してみます。
■ ライヒは、身体の鎧が緩む過程を見る
身体心理療法の源流の一つに、ウィルヘルム・ライヒがいます。
ライヒは、人が感情や衝動を抑えながら生きていると、その抑圧は心の中だけではなく、身体にも現れると考えました。
泣かないように喉を締める。
怒りを抑えるために顎を固める。
怖さを感じないようにお腹に力を入れる。
呼吸を浅くする。
こうした反応が何度も繰り返されるうちに、身体はその形を覚えていきます。
やがて、力を入れていること自体に気づかなくなる。
これが、ライヒのいう「筋肉の鎧」です。
セラピーの中でこの鎧が緩み始めると、身体には色々な変化が起こります。
呼吸が深くなる。
身体が温かくなる。
手足が動く。
身体の中を何かが流れるように感じる。
そして、その一つとして震えが現れることがあります。
つまりライヒにとって、震えだけが特別なわけではありません。
長い間固定されていた身体が、もう一度動き始める。
その過程に起こる、たくさんの身体反応の一つとして震えがあります。
■ ローエンは「振動できる身体」を見る
ライヒの流れを受け継ぎ、アレクサンダー・ローエンやジョン・ピエラコスらが発展させたのがバイオエナジェティクスです。
僕は個人的に、このアプローチがとても好きです。
現代ではカタルシス的な部分が批判されることもありますが、実際に身体を使ってみると、とても分かりやすいものがあります。
ローエンは、身体の「振動」を大切にしました。
例えば代表的なグラウンディング。
脚に体重を預けながら一定の姿勢を続けていると、脚が少しずつ震え始めることがあります。
最初は細かな震えだったものが、骨盤や身体全体へ広がっていくこともあります。
ローエンが見ていたのは、
身体がどれくらい生き生きと動けるか
ということです。
健康な身体とは、いつも静かで動かない身体ではありません。
呼吸すれば動く。
感情が動けば身体も動く。
興奮すれば力が入り、緩めばまた力が抜ける。
その中に、振動があります。
ずっと身体を固め続けていた人が、少しずつ力を抜けるようになると、身体が震え始めることがあります。
それは、
止まっていた身体が、再び動きを取り戻している
と見ることもできます。
ただし、ここでも、震えればいい、大きく震えればもっといい、という話ではありません。
呼吸はどうなっているのか。
足は地面を感じているのか。
怖さはないのか。
感情はどう動いているのか。
震えだけではなく、その人全体を見ていきます。
■ バイオシンセシスは「身体がどこへ行きたがっているか」を見る
デイヴィッド・ボアデラのバイオシンセシスも、ライヒから続く身体心理療法の一つです。
ただ、ここでは震えそのものよりも、
身体がどの方向へ動こうとしているのか
を見ます。
人間の身体には、色々な動きがあります。
近づく。離れる。押す。引く。丸くなる。伸びる。立ち上がる。振り返る。逃げる。手を伸ばす。
しかし、実際の人生では、身体がしたかったことをいつもできるわけではありません。
怖かったけれど逃げられなかった。
嫌だったけれど押し返せなかった。
助けてほしかったけれど手を伸ばせなかった。
離れたかったけれど、その場にいるしかなかった。
すると身体の中には、
本当はこう動きたかった
という方向が残ることがあります。
バイオシンセシスでは、こうした身体の運動の方向性を丁寧に見ていきます。
だから震えが出たときも、「もっと震わせよう」とは限りません。
もしかすると、その震えの中に、足を踏ん張りたい、手で押したい、身体を丸めたい、誰かに近づきたい、そんな動きが含まれているかもしれません。
震えを見るというより、
震えながら、この身体はどこへ行こうとしているのか
を見る。
僕はこの視点がとても好きです。
■ SEは、途中で止まった反応を見る
ピーター・リヴァインのSEでは、トラウマを「生存反応」という視点から見ます。
危険を感じたとき、身体は逃げようとします。
戦おうとします。
身を守ろうとします。
しかし、実際には逃げることも戦うこともできない状況があります。
そのとき身体は、動こうとしていた反応を途中で止めなければならないことがあります。
SEでは、その途中になっている反応を、安全な範囲で少しずつ扱っていきます。
その中で、身体が震える。熱くなる。呼吸が変わる。手足が動く。
そんな反応が出てくることがあります。
ただ、SEも、震えさせることが目的ではありません。
むしろ大切なのは、
今、その反応を感じていられるか
ということです。
強くなりすぎていないか。
今ここにいられるか。
周りを見ることができるか。
必要なら止めることができるか。
身体が動き始めても、その反応に飲み込まれない。
そのくらいの幅の中で、少しずつ身体の反応を追っていきます。
■ TREは、震えそのものを使う
TREは、少し違います。
デイヴィッド・バーセリによって作られた方法で、いくつかの運動によって脚や骨盤周辺に負荷をかけ、その後に身体の自然な震えを起こしていきます。
ここでは、震えそのものをかなり積極的に使います。
考え方としては、身体は緊張すると固まる。
そして、その緊張から戻っていく過程で震える。
つまり震えは、
身体が緊張を調整していくために持っている自然な反応
として扱われます。
動物が危険な状況を抜けたあと、身体をブルブルと震わせる。
そうした反応を、人間の身体にもあるものとして考えます。
ローエンのエクササイズと似ているところもありますが、TREは震えそのものを、セルフケアの方法としてかなり中心に置いている。
ここが大きな違いだと思います。
■ ゲシュタルトやハコミは、震えの意味を決めない
ゲシュタルト療法やハコミでも、身体はとても大切にされます。
ただ、
「震えとはこういう意味です」
という独自の説明をするというより、
今ここで、何が起きているのか
を見ます。
例えば、
「今、右足が震えていますね」
「その震えに気づいてみると、どんな感じがしますか」
「怖いですか」
「少し気持ちいいですか」
「もっと震えたい感じがありますか」
「止まりたい感じがありますか」
そんなふうに、今の体験を丁寧に見ていきます。
震えを説明するより、その震えを感じている人に、今何が起きているのかを見る。
これは、とても大切な視点です。
同じ震えでも、ある人には怖さかもしれません。
ある人には怒りかもしれない。
ある人には緊張が抜けていく感じかもしれない。
そして、ある人にはただの筋肉疲労かもしれません。
外から見ただけでは分からない。
だからこそ、
意味を決める前に、その人自身の体験を見る。
これは僕自身も大切にしていることです。
■ 震えが起きたからといって、何かが「解放された」とは限らない
ここは、少し気をつけたいところです。
「震えはトラウマ解放のサインです」
と言われると、とても分かりやすい。
セラピーを受けている側も、「ああ、今トラウマが出ていっているんだ」と安心できるかもしれません。
ただ実際には、そんなに単純ではないと思っています。
人間の身体は、色々な理由で震えます。
寒い。
怖い。
緊張している。
興奮している。
筋肉が疲れている。
力が抜けてきた。
呼吸が変わった。
感情が動いた。
こうした色々なことが重なって、震えが起きることがあります。
だから、
震えた=トラウマが解放された
と決めてしまうと、逆に身体を見なくなってしまうことがあります。
説明が先にあると、人はその説明に自分の体験を当てはめ始めるからです。
本当は怖いのに、
「これは解放だから大丈夫」
と思おうとする。
本当はもう止めたいのに、
「最後まで震えた方がいい」
と思ってしまう。
それでは、身体を感じているようで、また身体を置いていくことになります。
■ 震えれば震えるほど、良いわけではない
身体を使ったセラピーでは、反応が大きくなることがあります。
泣く。
叫ぶ。
震える。
身体が大きく動く。
こうしたことが起きると、まるで「深いところまでいった」ように見えます。
でも、反応が大きいことと、セラピーが深いことは同じではありません。
激しく震えていても、本人が身体から離れてしまっていることもあります。
反対に、外からはほとんど何も起きていないように見えても、本人の中では、
「初めて足の裏を感じた」
「少し呼吸ができた」
「怖いと言えた」
そんな大きな変化が起きていることもあります。
なので、震えがどれくらい大きいかよりも、
その震えの中に、その人自身がいられるか
を見ることの方が大切だと思っています。
震えながら呼吸できる。
震えながら足元を感じられる。
怖ければ「怖い」と分かる。
嫌なら「やめたい」と言える。
続けたければ続けられる。
そういう身体の方が、ずっと自由です。
■ 不随意の動きは、身体が勝手にやっているだけではない
身体が震えたり、勝手に動いたりすると、
「自分の身体なのに、自分でコントロールできない」
と怖くなることがあります。
でも、身体にはそもそも、自分で意識して動かしていない動きがたくさんあります。
呼吸もそうです。
瞬きもそうです。
心臓も勝手に動いています。
驚けば身体はビクッとする。
怖ければ肩が上がる。
安心するとため息が出る。
身体は、頭で考えるより前に、たくさんのことをしています。
震えもその一つです。
だから、身体が勝手に動いたからといって、それ自体が異常ということではありません。
ただし、その反応についていけないほど怖い。
意識が遠のく。
自分の身体ではない感じが強くなる。
止めたいのに止められない。
そういうときは、無理に続ける必要はありません。
身体に起きていることを尊重するというのは、
身体の反応に従い続けることではなく、止めることも含めて選べること
だと思っています。
■ 震えは「答え」ではなく、手がかり
色々な身体心理療法を見ていくと、震えの捉え方はかなり違います。
ライヒは、身体の鎧が緩んでいく過程を見る。
ローエンは、身体に振動が戻ってくることを見る。
バイオシンセシスは、身体がどの方向へ動こうとしているのかを見る。
SEは、途中になった生存反応を見る。
TREは、震えそのものを身体の自己調整として利用する。
ゲシュタルトやハコミでは、震えに意味を与える前に、その人の「今ここ」の体験を見る。
並べてみると、どれか一つだけが正解という感じは、あまりしません。
実際のセラピーでは、どの見方も起こり得るからです。
筋肉の疲労かもしれない。
緊張が抜けているのかもしれない。
怖さが出ているのかもしれない。
止めていた動きが出てきたのかもしれない。
身体が自分で調整しているのかもしれない。
そして、いくつかが同時に起きていることもあります。
■ 「何の震えか」より、今この身体に何が起きているのか
「この震えは○○です」
と、あまり早く決めないようにしています。
もちろん理論を知っていることは大切です。
ライヒを知っている。
ローエンを知っている。
SEを知っている。
バイオシンセシスを知っている。
それによって見えるものは増えます。
ただ、
理論を身体に当てはめるのではなく、身体を見ながら、必要なときに理論を使う。
その順番でありたいと思っています。
身体が震えたとき、
怖いのか。
気持ちいいのか。
もっと動きたいのか。
止まりたいのか。
どこかへ逃げたいのか。
何かを押し返したいのか。
それとも、ただ震えているだけなのか。
その身体に聞いてみなければ分からない。
震えは、トラウマが解放された証拠でも、セラピーが成功した証拠でもありません。
反対に、悪い反応というわけでもありません。
身体の状態が何か変化していることを教えてくれる、一つの手がかり。
今のところ僕は、そのくらいに考えるのが一番自然です。
■ 身体は、説明されるためではなく、感じられるためにある
身体心理療法を学んでいると、
これは自律神経。
これは防御反応。
これはトラウマ反応。
これはエネルギーの解放。
と、色々な言葉で説明できるようになります。
説明できることは大切です。
僕自身も、クライアントさんに伝えるとき、神経系という言葉を使うことがあります。
ただ、
説明できることと、その人の身体を分かることは同じではありません。
身体には、理論より先に起きているものがあります。
言葉にならないこともあります。
意味が分からないこともあります。
しばらく経ってから、
「あの震えは、怖かったんだ」
と気づくこともあります。
逆に最後まで、意味なんて分からないこともあります。
それでもいいのだと思います。
身体はいつも、何かを説明するために動いているわけではありません。
震えた。
呼吸が変わった。
少し力が抜けた。
涙が出た。
足が床を感じた。
それを、そのまま感じられる。
急いで意味をつけず、その身体と一緒にいられる。
僕は身体を扱うセラピーの大切さは、そんなところにもあると思っています。
salon Sonomamaでは、
何か新しい自分になることよりも、今ここにいる自分と、もう一度出会っていくことを大切にしています。
話すことだけでなく、身体に起きていること、人との関わりの中で起きていることにも目を向けながら、その方のペースに合わせてセッションを進めていきます。
「もっと自然体で過ごしたい」
「人といても、自分でいられるようになりたい」
「今の人生を、もう少し深く味わいたい」
そんな時は、何かを整えてからではなく、今のあなたのままでお越しください。
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