ここ数年、トラウマケアの領域では
「迷走神経」「背側・腹側」「シャットダウン」「共調整」など、神経生理学の言葉が一気に広まりました。
安全を“雰囲気”ではなく“身体の反応として語れるようになったのは大きな前進だと感じます。
しかし、臨床の現場にいると
こんなことも起きます。
「まだ腹側じゃないから進めない」
「シャットダウンだからしょうがない」
「安全ではない気がする」
理解や説明が、感じることから退く理由になってしまうときもあるわけです。
僕が思い出すのはゲシュタルトセラピストの方から教えて頂いた言葉です。
■「3つのシット(3つの逃げ方)」
ゲシュタルト療法のFritz Perls は体験を避けるための語りを
三つのタイプとして揶揄しました。
① チキン・シット(Chicken Shit)
臆病さから、感じることを避ける言い訳
• 「まだ準備ができていないので」
• 「いまはタイミングじゃないと思う」
② ブル・シット(Bull Shit)
勢いのある話だけで、本質から逸れること
• 「整えば全部うまくいく」
• 「この理論さえ押さえれば解決できる」
③ エレファント・シット(Elephant Shit)
立派で賢そうな言葉で、体験を上書きすること
• 「それは背側迷走の反応だから」
• 「神経の反応が下がっていて」
つまり
「説明が経験から逃げるために使われてしまうことがある。」
■ポリヴェーガル理論の価値は大きい
しかし、僕にとっては理論の貢献はかなり大きいものです。
• “安全”を生理的な現象として語れたこと
• “凍りつき”を生存戦略と再定義したこと
• “人はひとりでは落ち着きにくい”と示したことなど
これまで「なんとなくそうやな、、」と感じてきた事が、説明のつく形になったのは
臨床では本当に大切なことです。
ただ一方で、
安全は、ただ落ち着いている状態のことではないし、揺れ(不安定さ)が許され、扱われ、回復が起きる関係のことでもあるのです。
怒りも
沈黙も
戸惑いも
涙も
そこに居場所がある時間。
それが、人が安全を学び直すプロセスになることです。
■「ゲシュタルトの9つの基本姿勢」
ナランホは、ゲシュタルトセラピストが大切にしたい態度を
9つの姿勢としてまとめています。
1.過去や未来ではなく「今」にとどまること
2.ここにある現実に向き合うこと
3.想像の世界ではなく、実際の経験に触れること
4.考えすぎず、見て、聴き、味わうこと
5.操作したり、説明・正当化・評価するより「表現する」こと
6.快だけでなく、不快にも身を委ねること
7.自分以外の「〜すべき」に従わないこと
8.感情・行動・選択に責任を持つこと
9.今のままの自分を認めること
理論は地図です。
そして、“いま生きている体験”が本体です。
理論は、本当に力になります。
理解を助け、整理を助けます。
ただ、地図は私たちの代わりに歩いてくれません。
説明より、経験。
正しさより、誠実さと素朴さ。
安全の定義より、目の前の体験。
震えているとしても、
固まっているとしても、
それは間違いではなく、
あなたが生き延びてきた証です。
その身体とともに、
「いま」を一緒に丁寧に扱っていく。
安全とは、
整った状態ではなく、
揺れや不安的さを分かち合える関係性のことです。
理論はその関係そのものにはなれません。
体験に戻る。
そこからしか変化は始まらないのです。
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